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【プロ野球・社会人生活が長かった対決】高木勇人(巨人)vs.瀬川隼郎(日本ハム)

 野球選手は必ずしも「プロ野球選手になること」がすべてではない。2年でプロをクビになるくらいなら、社会人で長くプレーして、引退後は社業に専念したほうがよっぽど人生安泰だろう。実際にそうした理由からプロに進まない選手がいたり、スカウト側が指名を控えるケースもあるのだ。

 それでも、20代の半ばを過ぎて野球人生のピークを迎え、なかには妻子を養いながら「プロで勝負を賭けたい」と挑む男たちがいる。そのプレーからは、ほとばしる「覚悟」が感じられるだろう。ここでは、社会人生活が長かった注目の選手たちを紹介していこう。

【“社会人7年物”の大ブレーク右腕】
高木勇人(巨人)



 巨人のドラフト3位ルーキー・高木勇人が破竹の快進撃を見せている。新人ながら開幕ローテ入りを果たすと、4月は4勝負けなし、月間MVPを受賞した。高木勇は高校卒業後、社会人野球で7年間もプレーしている。なぜ、これほどの投手がドラフト指名解禁後4年間も社会人に残っていたのか……。それは単純に「指名漏れ」だった。

 高木勇は三重・海星高当時から本格派右腕として注目されていた。2007年の夏は三重大会準決勝まで進出。準決勝の対戦校・宇治山田商高にはエースで主軸、同じくプロから注目されていた中井大介がいたが、1−6で敗れている。その秋の高校生ドラフト会議(当時は分離ドラフトだった)でプロ志望届を提出した高木勇は、どの球団からも指名されず無念の指名漏れ。翻って、高木勇を破り甲子園にも出場した中井は巨人から3位指名を受けプロ入りを果たした。

 高校卒業後、高木勇は社会人の三菱重工名古屋に入社する。2年目にはヤマハの補強選手として都市対抗に出場し、豪快なストレートで押す投球で鮮烈な印象を残した。ところが、ここからがとにかく長かった。プロ解禁となる翌2010年から4年連続でドラフト指名漏れ。高校時代も含めれば5度の指名漏れを味わったことになる。


 20歳前後の高木勇のストレートは勢いこそあったものの、コントロールはアバウトだった。そこで今度は制球力の向上に取り組んだのだが、今度は「まとまりすぎて武器がない」という評価に傾いてしまった感がある。勝負どころで打たれることも多く、指名を検討する球団はあっても決定打を欠いていた。

 それでも2014年秋、高木勇は巨人から3位指名を受け、7年前からの悲願であるプロ入りをかなえる。その7年間で磨いたコントロールや、原辰徳監督が「高木ボール」と呼んだ曲がりの大きなカットボール、さらにシュートによる左右の変化を存分に発揮して、巨人の救世主となっている。

【苦節10年、妻子を伴ってプロの世界へ】
瀬川隼郎(日本ハム)



 社会人で過ごした「長さ」で言えば、瀬川隼郎の右に出る者はいない。今年のルーキーを見渡してみても、前出の高木勇が7年、中日6位の外野手・井領雅貴も7年、阪神2位の快速右腕・石崎剛が6年と、長期間在籍した選手が目立つが、瀬川はなんと10年。北海道の室蘭シャークスに2ケタ在籍していた。

 ダルビッシュ有(現レンジャーズ)が2004年のドラフト1位で日本ハムに入団、通算93勝を挙げて北海道の英雄となり、メジャーでもここまで通算39勝を挙げている。瀬川はこのダルビッシュと同学年で、ダルビッシュが7年間を過ごした日本ハムに、ダルビッシュが去った3年後に入団したことになる。まさに「球界の浦島太郎」だ。

 出身高校は北海道の名門・北海高だが、当時はプロを意識できるような投手ではなかったという。新日鐵住金系の社会人チーム・室蘭シャークスに入団後も際立った実績を挙げていない。ただ、25歳を過ぎた頃から腕の振りをマイナーチェンジすると、球速が140キロ台中盤に上がり、横の角度が出たことでクロスファイアーがより効くようになった。

 そして迎えた入社10年目の2014年夏の都市対抗。社会人屈指の名門・JR東日本を相手に好投を見せた瀬川は、駆けつけたスカウト陣から高評価を受ける。希少な即戦力サウスポーということも好材料となり、日本ハムからドラフト5位指名された。


 社会人野球チームは、一般的に午前中は社業の簡単な手伝いをし、午後から練習に励むというチームが多い。しかし、室蘭シャークスの選手たちは朝から夕方まで仕事をみっちりこなし、終業後から夜に練習するというハードな生活を送っていた。北の大地に育まれ、10年間の社会人生活に鍛えられ、今やプロの世界で妻と子供を養う「オールドルーキー」。マウンドに立つ瀬川を目撃した日には、ぜひその雌伏の時間を思いながらエールを送ってほしい。


■プロフィール
菊地選手(きくちせんしゅ)/1982年生まれ、東京都出身。『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。野球部員の生態を選手視点から分析する「野球部研究家」としても活動している。著書『野球部あるある』シリーズは累計10万部のヒット書籍に。ツイッター:@kikuchiplayer。

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