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なんだこのボールは!今年最大のサプライズ、大化けした千賀滉大(投手・福岡ソフトバンクホークス)の場合/file#030

『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
 今回は昨季に育成選手から支配下登録され、今シーズン、敗戦処理からスタートし、中継ぎ、セットアッパー、そして時にはクローザーも担当することになった千賀滉大(ソフトバンク)を大特集。

 初登板に3失点して以降は27試合連続無失点で防御率は0.74! そして、36回2/3を投げ、54奪三振(6月24日現在)という驚異的な数字!! 数字ももちろんだが、少々アバウトなコントロールながらキレが半端ない投げるボールも驚異的。今年ブレイクをした選手の中でも、上位に入る驚きを野球ファンに与えています。

 がしかし、育成ドラフトで指名された千賀の高校時代はあまり知られていません。報道も少ない…。これは『週刊野球太郎』でやるしかない、ということで、千賀を知る2人の『野球太郎』ライターそれぞれから見た千賀の高校時代を語っていただきました! 2種類の動画もあり、現在のフォームと見比べることもできます。

 まずは、尾関雄一朗さんが見た千賀滉大とは…


なぜ他球団は指名しなかったのか


 高卒3年目にしてプロで大注目を集めている千賀滉大。しかも育成ドラフト4位指名という“低評価”からのサクセスストーリーということもあり、他球団のファンから「ドラフトでなぜうちの球団は指名しなかったのか」という声が出ている。スカウトの見落としではないか、というわけだ。

 それに対する答えとしては、実は千賀は関東地方の強豪大学(東京六大学ではないが)に進学が内定していたから、ということになる。プロ球団のスカウトは基本的に、進学や就職が内定している選手には手を出しづらいものなのだ。

 もちろん、選手本人・受け入れ側の双方が“プロ入りできなかったときの保険”を前提とした内定関係であれば、話は別である。だがそうでない限り、内定・進学先との関係も考慮し、ドラフト指名に踏み切らないのが一般的。「千賀のことはもちろん知っていた、でも大学進学する話だったでしょ」というのが、他球団スカウト陣の大筋の弁だ。

 ただ、千賀本人は「プロ志望届」を出したわけであり、指名してもルール上なんら問題はない。となれば、ここから先は先述の事情もあり、(スカウト個人の判断というよりも)球団としての判断が問われてくる。同年の育成ドラフト3位の伊藤大智郎投手(愛知・誉高校出身)も千賀と同じような状況だったから、両投手の指名に踏み切ったソフトバンク編成サイドの決断があったのかもしれない。

ストレートは135キロ前後


 では、最初から千賀がプロ志望を表明していたと仮定して、ドラフトで人気になっていたかというと…決してそうではなかったと思う。蒲郡高3年夏の愛知大会初戦を筆者は見ているが、それほど高い評価はできなかった。

 というのも、今でこそ球速は150キロ台をバンバン掲示するが、当時はストレートにもう一段インパクトがほしいな、と感じたからだ。初戦には3球団ほどのスカウトが訪れていたが、彼らのスピードガンが示す数字は135キロ前後。高校での最速は140キロを超えていたというが、有無を言わさぬストレートで打者を圧倒するとか、そういう様子ではなかった。

 試合での点の取られ方も悪かった。中盤、無死から連打で出したランナーをバントで送られて、次打者にあっさりセンター前2点タイムリーを打たれた。

 翌イニングでは一死後、二者連続で四球を出し、送りバント後にまた四球。迎えた敵の5番打者にレフト前2点タイムリーを浴びた。この試合では完投するも8四死球。痛打されたシーンではいずれもヒジが下がっていて、まだまだ高校生レベルの面が多いなという印象を抱いた。



柔らかでクセの少ない投球フォーム


 それでも、可能性を感じる部分はいくつかあったのも事実。打たれたとか点をとられたとかいう表面上の結果ではない、資質面での可能性だ。

 一つ目に「投手体型」であったこと。高校時代は183センチ、75キロ。ずんぐりむっくりなピッチャーはプロ側から好まれにくい傾向にあるが、千賀はその対極だった。

 二つ目に、フォームが柔らかくてクセが少なかったこと。オーソドックスなフォームがきれいだった。左足を上げた際の立ち姿が絵になっていて、グラブ(左手)の出し方やしまい方などもスムーズ。踏み込むときも左膝が内側を向き、体の開きが抑えられていた。腕は(真上ではないが)自然なオーバーハンドの角度で、シャープかつ楽に振っていた。力んで馬力に頼るのではなく、しなやかさを生かしながら、良い意味で力を入れずに淡々と体を弾けさせていた。

 三つ目に、球の回転のよさ。スピードは130キロ台でも、いわゆる“快速球”だった。一塁ベンチ上から見たとき、指にかかった角度のある快速球はなかなか爽快だった。



「伸びしろ」の指標


 これは今スコアを見返して分かったことだが、打者としても3番で安打を連発、押し出しの四球を選び、スクイズも決めている。好投手は打撃も光っているのが通例。千賀もそのパターンに当てはまっていたようだ。

 千賀ほど化けるケースも珍しいが、それだけの「伸びしろ」を持っていたのだろう。一言で「伸びしろ」といっても曖昧だが、先述した千賀の高校時代の長所である体型、クセのなさ、柔らかさ、球の質、打撃。これらは伸びしろに通じる要素なのだろうなと、千賀を見ていて再認識させられるのだ。



文=尾関 雄一朗(おぜき・ゆういちろう)/1984年生まれ、岐阜県出身。新聞記者を経て、現在は東海圏の高校、大学、社会人を精力的に取材。昨年は濱田達郎投手(愛工大名電高→中日)らを熱心に追い続けた。


 尾関さん、ありがとうございました。続いては、先日発売された『静岡高校野球2013』の制作に関わる新井広美さんです。

金の卵の目撃者は多かった


 最近のニュースで驚いたことがあった。「どうして地元の金の卵・千賀滉大を発見できなかったのか」と中日の東海担当スカウトが叱責されたというニュースだ。

 2010年夏、千賀を見つめたのはソフトバンクのスカウトだけではなかった。多くの球団のスカウト、そして大学野球関係者、社会人野球関係者などが視察に訪れた。しかし、千賀が指名を受けたのはソフトバンクの育成ドラフトだった。

 千賀を獲得したソフトバンクですら、もし今の千賀を想像できていたのなら、入るか入らないか賭けのようなところもある育成での指名はなかっただろう。私の記憶の中にも『蒲郡の千賀滉大』という名前こそ残っていたが、今の姿は別人どころではなく、違う次元にいってしまった気がする。

しなやかさが魅力の「普通の」好投手


 私が千賀を見たのは、千賀が蒲郡高校3年の夏だった。静岡県内の大学や、愛知リーグの大学が狙っていて、プロのスカウトも見に来ている140キロ右腕がいると聞き、熱田球場に足を伸ばした。

 マウンドに立った千賀は長身でバランスのいい体格をしており、ストレートのキレこそよかったが、愛知県内に出現する好投手としては驚くような存在ではなかった。制球も良いと断言できるほどではなく、相手をねじふせるような投球でもない。

 当時の変化球ではスライダーが良く、フォークの印象はそこまで強いものではなかった。ただ、腕の振りはしなやかで、しっかり振れていたので、「大学で4年間やれば楽しみだな」という感想は持った。





 その印象は、2011年の早春にソフトバンクのキャンプでノックの手伝いなどをしていた128番の後ろ姿を見ても特に変わらなかった。同じ愛知の誉高校から育成でソフトバンク入りした伊藤大智郎と一緒にいたが、まだ2人ともユニフォームに着られている様子で、「大きく育てよ」なんて心の中で唱えたのを覚えている。

千賀の1年は常人とは違うのでは?


 だからこそ、2012年のオープン戦で千賀の投球を見た時には驚いた。「SENGAってあのセンガ?」と何度も確認してしまった。

 まず体型が違う。そして、投げている剛速球は違うとかそんなレベルではない。別人でもまだ足りないと思うほどだった。千賀を見に熱田球場に行ったのって何年前だったっけと考えて、それが、1年半前のことだと気付き、唖然とした。4年後、5年後ならわかる。たった1年半でこんな成長の仕方をするのか? 千賀だけ生きている時間の早さが違うんじゃないか? なんてオカルトなことを考え始める始末だった。

 しかし、今年の千賀を見ていると、オカルトとは言えないような気までしてくる。昨年のあの鮮烈なインパクトを、さらに超える投球をやってのけている、とてつもない成長スピードがいまも継続しているのだから。

ということで、今までドラフトの目玉から、隠し球までずいぶん色々な投手を見てきたが、千賀滉大は私の中でオカルトカテゴリーに分類されている。お化けフォークもあることだし。

文=新井広美(あらい・ひろみ)/東京都出身、静岡県在住。雑誌『野球小僧』の編集を経て、現在はライター兼編集兼雑用として『静岡高校野球』に携わる。静岡の中学から社会人までを守備範囲に逸材を探す。好きな言葉は「しなり」。


新井さん、ありがとうございました。
 今後伸びそうな資質は感じられたものの、当時は普通の投手、という感じだった千賀。大人の体になり、伸びてくる選手は大いにいるかもしれませんが、ここまで急激に伸びる選手はそうそういないですが、こういう事が起こるのが野球の面白さですよね。その逆もありますし…。

 沖縄と北海道ではすでに夏の地方大会がスタートしました。今年の高校球児はドラフト候補として期待する選手は少ない…という見解が広がっていますが、千賀のような大化けをする選手が眠っているかもしれません。「アイツの高校時代、見てるよ」とみなさんも自慢できるような選手と出会えることを願って、これからの高校野球シーズンを楽しんでください!

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